ウッドショックとは?どんな影響があるの?
このページでは、建築士の仕事に大きな影響を与えるとされている「ウッドショック」について、分かりやすく解説します。
そもそもウッドショックとは?
「ウッドショック」とは、世界中で輸入木材の価格が高騰している問題のことです。とりわけ日本では、輸入木材に対する依存度も高く、住宅業界に大きな影響があると危惧されています。
過去に「オイルショック」という言葉がありましたが、使用する木材の約7割を輸入木材に依存している日本(※)では、これと同様の事態になることさえ心配されており、木材の供給に大きな不安を抱えているのです。
参照元:林野庁「令和3年度 森林・林業白書」(https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r3hakusyo/zenbun.html)
ウッドショックは、2021年3月頃から発生していると指摘されており、住宅価格の値上げをはじめ、建築士の仕事にも大きな影響があると言われています。
ウッドショックの原因は?
複雑な世界情勢
2021年3月以降に「ウッドショック」が発生した背景には、まず複雑な世界情勢が理由としてあげられます。
感染症流行による情勢不安をはじめ、中国や国内で木材需要が高まっていることも、日本が輸入木材を調達しづらい要因のひとつとなっています。
例えば、大規模な金融緩和を進めるアメリカの経済政策も理由のひとつです。大規模な金融緩和による超低金利を背景に、アメリカ国内では住宅ブームが起こっているからです。このように各国の経済状況によって、日本の輸入木材の供給が大きな影響を受けているのです。
参照元:エーエス・ライジング(https://asrising.co.jp/blog/2021/07/20/ウッドショックとは?いつまで続く?原因・対策/)
国内林業の衰退
しかし、根本的な要因と指摘されているのは、国内林業の衰退です。
発端は戦後の住宅需要のひっ迫まで遡りますが、当時、国産木材の供給が需要に追いつかない状況が、そのまま輸入木材への依存を高めることになりました。さらに、ローコスト住宅を提供する大手ハウスメーカーの台頭も、価格が安い輸入材にたよる業界体質を生み出した、と指摘されています。
国内林業の再生が主張される背景には、このようなポイントもあるのです。
ウッドショックが与える影響は?
木造住宅の価格高騰
ウッドショックが建築業界に与える影響は、やはり価格の高騰です。とりわけ輸入木材を使う木造住宅では、コスト増が避けられない状況になっています。
大きな影響を受ける部分は梁です。梁は、柱などの部分よりも高い強度が求められる材ですが、国産の木材ではこれに適しているものが希少ということもあり、輸入木材に頼りがちだからです。
国産木材に強みがある工務店は影響が少ない
一方、ウッドショックによって大きな影響を受けないのは、もともと国産木材にこだわりをもって住宅を手がけている工務店です。
地域の木材を活用するなど、それぞれの地域に根付いた建築事務所は、ウッドショックによる輸入木材の高騰があっても、事業を左右されることはないでしょう。
これとは反対に、ローコストを強みに事業展開をしてきたハウスメーカーや建売住宅メーカーは、輸入木材の価格高騰によって大きな影響を受けています。これまで価格にメリットがあった分、ウッドショックは痛手になるかもしれません。
影響はいつまで続く?
ウッドショックの影響がいつまで続くのかは、いまだに予想ができない問題です。
輸入木材の価格が落ち着くには、例えば、各国の需要が下火になる必要がありますが、これは世界情勢によって決定される部分もあります。解決の見込みになるような情勢は見えておらず、反対に、「ウッドショックが常態化してしまうのではないか」とさえ危惧されている状況です。
国産材への切り替えは難しい?
供給量が整うまで時間がかかる
日本の森林率は世界有数ということもあり、「ウッドショックをきっかけに、国内の林業が再生するのではないか」と思われる方もいるかもしれません。しかし現実には、木造住宅の材を国産材で代替するには、いくつかハードルもあります。
例えば、既に見たように、木造住宅における梁が国産材ではまかなえない、といった事情です。柱であれば、スギやヒノキといった木材を使うことができても、高い強度が必要な梁に使われるカラマツなどは、需要に見合う供給量をすぐには整えることができません。
タイムスパンの違い
また、「林業の生産現場におけるタイムスパンは、ウッドショックに対応できない」という指摘もあります。
木材が市場に供給されるには、数十年という非常に長い期間が必要です。このように、林業は長期的なタイムスパンのなかで営まれているものですから、突然発生したり、世界情勢によっては、いつ終わるとも知れないウッドショックのような状況に、流動的に対応することができないのです。
言い換えれば、現時点で発生しているウッドショックに対応しようと、急いで木材を切り出してみても、出荷量が揃い始めることには、ウッドショックが終わっているかも知れません。そうなれば、これまでと同じように輸入木材との価格競争に負けてしまい、大きな損失になりかねません。
ハウスメーカーのビジネスモデル
最後の理由は、ハウスメーカーのビジネスモデルに関するものです。
現在のハウスメーカーは、輸入木材の強度を前提とした建築設計を行っており、木材を国産に切り替えるようとすれば、これまでとは異なる設計方法を新たに開発しなければなりません。強度の観点からしても、使用する木材の量を増やすなど、大きな変更が予想されます。単純な販売価格にとどまらない、根本的なビジネスモデルの変更すら必要になるかもしれません。