建築士会とは
建築士として働いている人の多くが「建築士会」という会に参加しています。建築士会は建築士がお互いに交流を深めたり、スキルを高めるためのネットワークとして重要な役割を果たしている法人です。こちらでは建築士会の特徴や行っている活動について紹介します。
建築士会について
建築士会とは「日本建築士連合会」の略で、建築士同士がお互いの知識や技術を向上させ、社会公共や福祉増進に貢献することを目的として1952年に設立された社団法人です。
主な活動として、建築士の研鑽の場を提供していることが挙げられます。建築についての豊富な経験と知識を持つ講師を招き、研修や講習会を開催。建築士全体のレベルアップを図っています。建築士同士のつながりを強化すべく、定期的に情報誌を発行したり、インターネット上で情報を共有したりする活動も行っているのが特徴です。
一般の人に対して建築に関する内容の相談を受けたり、地域の景観や街づくりを支援する活動などを行ったり、建築を通して社会に貢献していくことを目指しています。
建築士会がしていること
建築士会CPD制度の導入
建築士会は、建築士の実績や研鑽のための努力を社会に証明すべく、建築士会CPD制度と呼ばれる制度を導入しています。CPD制度は建築士が資格を取得した後、知識や技術の向上のために研鑽を重ねているということを客観的に証明するものです。建築士会が認定した講習会の研修プログラムに参加して、その後履修したという証明書を発行する仕組みとなっています。建築士会のCPD制度を登録者数は全国で35,000人以上です(2008年9月現在)。
この証明書が、建築士の実績や研鑽の証となります。CPD制度への参加は強制ではないため、参加をするかどうかは個人の自由です。ただ、建築士会が発行するCPD制度の証明書は建築士としてのステータスともなりますし、施工主さんへの印象も良くなる効果が期待されています。実際にCPDの実績が行政庁発注工事・設計管理入札における評価点に加点されるなど、活用されるようになってきているので取得しておいて損はないでしょう。
専攻建築士制度の導入
CPD制度と同じく建築士の実績を証明する目的で、専攻建築士制度というものがあります。建築士の仕事は複雑で範囲も広いため、1人の建築士が建築に関わるすべての仕事を受け持つことは困難です。そのため建築士の職域を8つの専攻領域に分けて、それぞれの領域の専門家として社会的に証明するような制度をとっています。
専攻建築士になるための要件としては
- 建築士免許取得後、責任のある立場での当該領域の実務経験が3年以上
- 専攻領域の実務経験が5年以上
- 規定CPD単位(5年間で250単位)の取得
が必要です。
専攻建築士の8つの専攻領域は
- まちづくり専攻建築士
- 統括設計専攻建築士
- 構造設計専攻建築士
- 設備設計専攻建築士
- 建築生産専攻建築士
- 棟梁専攻建築士
- 法令専攻建築士
- 教育・研究専攻建築士
となっています。
専攻建築士を取得すれば自分の得意分野を提示できるのがメリットです。より質の高い建築士であることの証明となるため、社会的な信用にもつながります。
定期的な講習会や研修会を開催
社会に向けて良好な建築環境を提供する義務があり、資格取得後も絶えず自己研鑽を重ねていくことが求められる建築士。そんな建築士の資質向上を目指して、建築士会は定期的講習会や総合研修を開催しています。
2008年11月28日に施行された建築士法の改定により、建築士事務所に所属する建築士は3年ごとに定期講習の受講が義務付けられました。建築士会は建築事務所に所属する建築士だけではなく、幅広い分野の建築士に対しても総合研修を実施しています。
過去に行われた講習会の一例としては以下のようなものがあります。
- 監理技術者講習
- 建築士定期講習
- 既存在宅状況調査技術者講習
- 総合図作成ガイドライン講習
- 建築生産入門講習会
- 改正業務報酬基準(告示第98号)説明会
建築士の全国大会の開催
建築士会は建築士同士の連携を深めたり、研鑽を重ねたりする目的で毎年1回全国大会を開催しています。この全国大会は1956年から毎年開催されている大会です。各都道府県の建築士会会員が集まり、
- 功労者
- 伝統技能者
- 連合会賞
などの各表彰や会計報告、まちづくり交流プラザセッションなどの各諸行事を行っています。建築士が担っている社会的役割と責任に対する意識の高揚を図り、建築文化の発展につなげることが目的です。
また、まちづくり交流プラザセッションにおいては一般からの参加者を募っています。建築士に対する認識を深めると同時に、建築士会会員相互の連携を深めることも目的の1つです。
各種委員会を設置
建築士会は各種の委員会を設置して活動することで、
- 建築士会の円滑な運営
- 建築士の育成
- 地域の社会貢献
を行っています。委員会は
- 常設的委員会
- 専門的委員会
- 時限的委員会
の3つに大きく分けられるのが特徴です。常設的委員会はここから
- 総務・企画委員会
- 法制度本委員会
- 教育・事業本委員会
- まちづくり委員会
- 青年委員会
- 女性委員会
- CPD/専攻建築士制度委員会
に分割されます。専門的委員会は
- 情報・広報委員会
- 国際委員会
- 建築技術委員会
- 実務保険委員会
に分割され、情報収集や建築技術に関する活動をしているのが特徴です。
それぞれ各委員会には経験豊富な建築士が委員長となり、各活動を統括しています。
社会貢献を目指した活動
まちづくりや景観を守る活動、防災・防犯対策など地域の行政と建築を連携させる活動を行っている建築士会。被災地に訪問し、応急危険度判定士としてボランティア活動も行っています。被災地の建築物の危険度の判定や住宅相談などを受け、地域の復旧作業に協力するなどの社会活動に貢献しているのです。
これらの経験を元にして建物の耐震化耐震補強の推進、防災・耐震まちづくりに生かすことで、地域の建築物財産を守る活動につなげています。
2013年には、災害によって歴史的建造物が損壊した際の支援体制が構築されました。建築士会内に「被災歴史的建造物の調査・復旧支援体制のためのタスクフォース」 を設置して対応マニュアルを作成。今後の大規模な災害時に、被災して失われる歴史的建造物の数が少しでも減少するよう対策が立てられています。
一級建築士免許証の交付
以前までは、一級建築士免許の交付手続きの登録事務を国が行っていました。2008年に始まった新建築士制度により、現在は建築士会が行うようになっています。登録申請の受付の窓口は、各都道府県の建築士会です。
建築士の情報発信
建築士会は、毎月「建築士」という情報誌を発行しています。都道府県建築士会の連合体である日本建築士会の会報誌として、毎回
- 思考をこらした特集
- 建築業界のニュース
- 連載講座
- 建築士会の活動
- 評論
- 法律
- 環境・都市計画
- 設計
- 技術積算
- 材料
- 設備
などの解説や、随筆に書評などが掲載されています。読者は主に一級建築士、二級建築士、木造建築士の資格を持った建築士会会員です。発行部数は建築会の中でも多く、全国にくまなく配布されています。
この「建築士」に掲載されている連載講座を読んで、設問に回答することでCPD単位を取得することが可能です。ただし、これは建築士会会員のみが対象となります。
各連合会および建築士会のホームページにて
- 会員用コンテンツ
- 一般用コンテンツ
- 建築士・建築士受験者用コンテンツ
を充実させており、有益な情報を提供しているのもポイントです。「建築士を探そうnet」にて、建築士の情報も発信しています。
建築士や生活者をサポート
一般の人や建築士向けに、建築に関するさまざまな問題についてアドバイスが受けられる無料相談も設けているのが特徴です。消費者保護だけでなく、建築士の仕事が適正に評価されるために建築士の情報開示や説明責任などが強く求められている現状に合わせてサポートをしています。
建築士法の改定により建築士の罰則規定が強化され、複雑化する建築業界においてリスクが高まる可能性が増えてきているのもサポート理由の1つです。仕事を進めていく上で起こるトラブルや悩みに対して、建築士会は経験豊富な建築士がアドバイスする体制を整えています。
消費者向けのサービス
建築士会は消費者に向けて「建築相談窓口」を設けています。建築や設計に関する不安やトラブルを解消するサービスを行っているのがポイントです。各都道府県の建築士会が窓口となっており、地域ごとに相談できます。「既存住宅状況調査技術者」、「ヘリテージマネージャー」「専攻建築士」「一級建築士」が個別に検索できるようになっており、関わりのある建築士に問い合わせがしやすいような環境が整えられているのも消費者にとってメリットの1つです。
建築士免許証明書の発行
最近では建築士免許の捏造により、建築士のなりすましによる事件が発生しています。それを受けて2015年6月25日に施行された建築士法の改定により、建築士は依頼を受けた場合に建築士免許または建築士免許証明書を提示することが義務付けられました。
建築士会では提示を求められた時に、携帯可能で便利なカード型免許証明書を発行しています。カード型免許証明書の裏側には法定講習受講履歴を記載できるようになっており、所持していることによって建築士の信頼、実績も証明することが可能です。
一級建築士免許証の携帯型免許証明書を取得するには、申請が必要となります。A4判の一級建築士免許証を携帯型へ変更する場合、住所の届け出や免許証の原本およびコピーが必須です。各申請書に記載されている元号は、変更が必要となる場合に手書きで訂正しておかなければいけません。令和の年月日が平成のままである場合は、申請可能です。
携帯型免許証明書の申請
現住所の建築士会へ、申請をする本人が申請書を持参しなければいけません。郵送やメールは受け付けておらず、書類に不備や不足があっても受け付けてもらえないのでチェックは必ず行いましょう。どうしても本人が申請できない理由がある場合、代理人に申請してもらうことは可能です。ただし、受け取りは本人でなければいけません。
建築甲子園の開催
建築士会では高校生による「建築」甲子園を開催しています。選手は全国47都道府県で建築教育課程のある工業高校・高等学校・工業高等専門学校(3年生まで)が対象です。先生は監督として、毎年違うテーマを基に建築の設計提案コンペを行います。応募された作品は、県大会予選(都道府県建築士会単位での審査)を実施して全国大会出場校を選ぶのが特徴です。
県大会を勝ち抜いた1つの作品が、全国選手権大会(連合会審査)へと勝ち進めます。ベスト8入賞校へは建築士会から通知が届き、最終審査会でのプレゼン用動画を提出しなければいけません。最終審査会でベスト8校から提出されたプレゼン動画から審査が実施され優勝、準優勝が決定されます。
優勝は10万円、準優勝は5万円、ベスト8には3万円が賞金として渡されます。他にも
- 審査委員長特別賞教育・事業委員長特別賞
- 女性委員長特別賞
- 青年委員長特別賞
- 奨励賞
などの各賞が選定されます。
将来、建築士を夢見る学生にとっては非常に有意義な大会です。
建築士を守る保証制度
建築士会では会員が仕事を進めていく上で生じるリスクに備えて、業務関連の保証や所得を補填する共済保証制度を用意しています。
業務関連保証の一つは「けんぱい」と呼ばれる建築士賠償責任保証制度です。建築物の設計、監理業務上のミスで建物が崩壊や事故が発生した場合、建築物や人に被害を与えた際の賠償責任に備えておけます。
もう一つは「NEWこうばい」と呼ばれる工事総合保証制度で、設業者をさまざまなリスクからガードするものです。建設している段階から工事の完成引渡し後の第三者への賠償責任保証に加えて、火災や盗難といった工事保証にも加入が可能です。
所得保証として用意されているのは「新所得補償プラン」です。業務中や業務外を問わず、病気や怪我により就業することが不可能で休業している間の所得を、8日から1年間を限度として補償してくれます。団体割引により20%安くなるため、建築士会会員はお得な価格で加入できるのがメリットです。
癌や疾病に対する補填も、オプションでつけられます。もう一つはグループ保険で団体定期保険と傷害保険が合わさったものがあるので病気や不慮の事故による死亡、怪我による入院の場合を補償してもらえる保険です。従業員に対する弔慰金や死亡退職金・災害保険金制度として利用されています。各保証のプランや料金、保証内容や期間、適用条件などは建築士会まで直接お問い合わせください。