女性が一級建築士になるには?
建築物をデザイン・設計する建築士という職業は男性が多いイメージですが、女性にも「建築士になりたい」と夢を持つ人は数多くいると思います。
建築士は決して男性だけの職業ではなく「なりたい」という志さえあれば、学力や年齢、性別関係なく誰でも目指すことができる職業なのです。
今回は女性が建築士になって活躍できるのか、どう働けばいいのかをはじめ、発揮できる能力や女性ならではの悩みなど、女性建築士にまつわる情報についてまとめました。
女性建築士の現状や活躍している人たち
それではまず女性建築士について、その現状や実際に活躍されている方について紹介します。
女性建築士の現状
建築士の仕事は設計はもちろんのこと、実際の現場で大工など職人さんたちに指示を出す監督業務もあるため、どうしても男性が多いのは事実です。
しかし現在、一級建築士として会社に勤めている女性は実に7人に1人いると言われており、その人数も年々増加傾向にあります。
一級建築士の試験結果を見れば、女性合格者の割合は右肩上がりで増加し続けていると分かるでしょう。最近ではその3割ほどを女性が占めるほどです。二級建築士においても同様に増加傾向にあり、合格者の4割近くが女性となっています。
この背景には、男女の雇用の均等化が理由の1つとしてあるのかもしれません。他にも女性活躍推進のために国土交通省と建設業5団体がタッグを組み、「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」として、2014年以降さまざまな取り組みを行ってきたことが挙げられます。
建設業界で活躍する女性技術者・技能者を「けんせつ小町」と名付け、業界全体で女性の活躍促進に力を注いできた結果が徐々に現れてきているのでしょう。
この流れは今後も進み、より女性建築士の活躍が目立つようになってくると考えられます。
有名な女性建築士
妹島和世
日本の有名な女性建築家の一人に、横浜国立大学大学院教授の妹島和世氏がいます。
妹島和世氏は「建築界のノーベル賞」とも言われている表彰を受けた、女性建築士です。
建築家ユニットのSANAAとして金沢21世紀美術館、ルーブル美術館の別館ルーブル・ランスなど設計した実績を持っています。個人での設計だと、すみだ北斎美術館も大変有名です。
長谷川逸子
特に有名な日本の女性建築士として、関東学院大学客員教授の長谷川逸子氏がいます。
長谷川逸子氏は英国で歴史がある「ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ」という芸術組織が作った建築賞の受賞者です。
国内での受賞を経て一躍注目を浴び、山梨県笛吹川フルーツ公園など有名な設計作品を世に送り出しています。
ザハ・ハディッド
ザハ・ハディッド氏は、新国立競技場の設計コンペで日本中に知れ渡った有名建築家です。これをきっかけに建築に興味がない人でも「ザハ・ハディッド」という名前を聞いたことがあるという人は少なくないでしょう。
ザハ氏は世界的に有名な建築作品を数多く手がけており、マカオのホテル「モーフィアス」、北京の「銀河ソーホー」など曲線に特徴のある建築を得意とします。
彼女の設計はデザインを最優先するあまり、実際には立てられないこともあり皮肉を受けてしまう事もあります。その一方で、技術が追い付かないレベルの高い設計センスを持った女性建築士とも言えます。
女性建築士も活躍できる
国内外を問わず、活躍され歴史に名を残すレベルで有名になっている女性建築士も実際に存在します。そして、これから活躍され有名になるであろう若手の女性建築士の方々も確実に増えてきているはずです。
女性建築士のメリットとデメリット
では、実際に女性が建築士になった場合、どのような点で男性以上の強みを発揮でき、逆にどのような点で女性ならではの苦労があるのでしょうか。
ここからは女性が建築士になるメリットとデメリットをそれぞれ紹介していきます。
女性建築士のメリット
家事や育児を活かした設計ができる
建築士への依頼の中でも多いとされる戸建住宅の設計において大事なことは、実際にそこに住む人の暮らしを考え、その人に合った住宅を作り上げることです。
キッチンの使い勝手や家事動線、掃除のしやすさなど、主婦としての目線が必要となります。
もちろん現代社会においては家事についても、男女の平等化が進みつつあるのは間違いない事実です。それでもやはり出産や育児などで、どうしても女性のほうが家庭にいる時間は高くなる傾向にあります。
もちろん設計にはいくつものパターンがあり、それらを組み合わせることでデザイン性や利便性を向上させて、満足度の高い住宅に近づけていく点では男性建築士との違いはありません。
しかし、本当に必要なもの、あると嬉しいもの(もしくはない方がいいもの、不要なもの)は実際に経験がある人でないと分かりづらいでしょう。
女性建築士の場合は、住宅設備の実使用者に近いという意味で有利と言えます。特に子育てをしている方の場合、子供がいる家庭の家を建築する際に自分の経験を活かせるはずです。子どもといっても性格が違えば行動も異なるので、注意すべき点にも配慮しなければいけません。子どもが触ると危ない物をしまう収納、勝手に外に出てもすぐに分かる設計など、家事をする側の視点を持っていれば、導線の設計もしやすくなるでしょう。
視覚的、感覚的なものを大切にした設計ができる
居心地の良さや空気感、雰囲気など、クライアントが言語化しにくい「なんとなく」の希望を女性建築士ならではの感性や感覚で空間に活かせます。
住宅であれば「居心地のいい家にしたい」「暮らしやすい空気感がほしい」、店舗であれば「ガーリーな女性受けするようなデザインがいい」という要望があった場合、きっと男性ではなかなか言葉からではイメージが掴めず、クライアントの求めるものをうまくくみ取ることが困難だと思います。
しかし、女性建築士であれば、そういった感覚的な要求に対しても相手が求めているイメージをうまくくみ取り、より細かな点にも気付くことが得意です。
理想への気配りやきめ細やかな対応
戸建ての注文住宅においては、女性建築士であれば奥様も要望を伝えやすく、それを通して旦那様にもうまく理想を伝えやすいという強みもあります。男性建築士には話しづらいことでも、女性建築士には不思議と話しやすいでしょう。
実際に男性建築士に比べて、女性建築士の方がちょっとしたことに気付いてくれたり、些細な質問も聞きやすいなどの理由から、打ち合わせがしやすいという声もあるようです。
女性側の気持ちに気づきやすく、戸建てはもちろん店舗についても女性客を対象とした建築の場合に活躍できます。
横のつながりが持てる
まだ男性社会である建築士の世界において、女性建築士の間での情報交換は大切です。経験者から学ぶことで、実際に現場で活用できる知識も身に付けられます。
女性建築士のデメリット
ハードワークで体力が必要
建築士の資格をもっていると裁量労働制を適用できるため、定時で終わらないことも多く、時には残業や徹夜をすることもあるでしょう。良いものを作ろうと追及すればするほど、残業や休日出勤も多くなるため、男性はもちろん女性にとってもかなりハードワークと言えます。
締め切り前や繁忙期には、他の建築士にフォローしてもらわないといけない場合もあり、自分1人で仕事を完結できない悔しさを感じることもあるかもしれません。ただ、周囲にサポートをお願いすることも大切なことです。
現場で多くの男性を統率しなければならない
建築業界も女性が増えてきたとは言っても、まだまだ男性のほうが多い業界に変わりはありません。特に現場の職人はそのほとんどが男性のため、彼らの気持ちを理解し、統率することは男性建築士より苦労が伴いやすいでしょう。
また、中には女性だと思って舐めてかかってくる職人さんもおり、辛く感じる瞬間もあるかもしれません。その際は頼れる方に同行してもらう、上司に相談して対応しましょう。お互いに敬って「良い建築物を作りたい」という目標が一致しているなら、周囲の人たちの気持ちを上手に汲み取りつつ、うまく仕事を進めていくこともできるはずです。
結婚、出産、育児との両立
女性建築士に多いとされているのが、結婚や出産を機に退職してしまうケースです。
もちろん他の業種でも女性が結婚や出産で退職するケースが珍しくありませんが、とりわけ建築業界では特に多い傾向にあります。
その理由として、建築士になると図面上で設計をするだけでなく、現場に行く必要があるためです。家事や育児をしながらの場合、負担が大きくなるでしょう。
また勤め先によっては、クライアントとの打ち合わせなどで休日出勤もしなければならないということもあり、家族への負担を考え辞めてしまうケースがあるようです。
しかし、その一方で高い専門性ややりがいに魅力を感じ、家事や育児と両立させながら建築士を続けている女性も近年増えてきています。一概に女性だからという理由で辞めなければならないということではありません。
女性建築士の働き方
女性建築士になるメリットとデメリットを説明しましたが、特にデメリットに関しては、働き方次第で軽減できます。
そこで、女性建築士の働き方についてまとめてみました。
企業に勤める
まず女性建築士におすすめなのが、ゼネコンなどの大手企業に勤めることです。日中は保育所などに子どもを預け、子育てしながら働けます。
大手企業であれば人員が整っていることもあり、仕事が忙しくなってきても他の人に任せたり、協力してもらったりしやすいというメリットがあるからです。また、育児休暇制度が充実しているというのも強みの1つとしてあります。
職業が分業化されているため、請け負ってから完成までのすべての業務を任されることがなく、同じような仕事を繰り返すのことでスキルが上がり仕事を順調に終えやすくなるのもメリットです。これは作業時間が短くストレスも少ないため、仕事の負担が軽減されることに繋がります。
もちろん仕事が終わった後に、育児や家事なども待ち受けているわけなので、決して肉体的・精神的な負担が少ないわけではありません。それでも、ゼネコンのような大手企業で働くことは魅力的だと言えるでしょう。
独立開業する
建築士の仕事は、CADなどのソフトウェアが使えるパソコンさえあれば、どこでも仕事をすることができるという強みがあります。企業勤めで子育てや家事との両立が困難だと感じた場合には、思い切って独立開業して設計事務所を立ち上げることも可能です。
自宅を職場にしてしまえば、通勤時間がゼロになる上、仕事をしながら家事や育児をする負担も軽減できるでしょう。
独立開業と聞くとハードルが高く、色々な苦労やリスクも確かに伴いますが、結婚や出産後にも仕事を続けたいと考えている女性建築士にとっては有効な手段のひとつだと言えます。
独立すれば、ある程度自分の生活リズムや体力などに合わせて仕事を調整できることもメリットです。実際に独立開業して、子育てと仕事を両立しながら活躍している方もいます。中にはブログをされている方もいるため、何をすればいいのか、何が大変だったかなどブログを見ることで学べるのがメリットです。ただやみくもに始めるのではなく、先輩方の意見も取り入れながら検討するのが良いでしょう。
女性建築士についてのまとめ
まだまだ男性が多い業界とは言え、女性建築士だからこそできる提案や価値ある仕事があります。実際にご活躍されている方々もいるので、活躍できる場はあるはずです。
また、以前と比べて現在は結婚、出産、育児と仕事を両立できる制度や復職しやすい環境も整ってきており、女性であっても建築士として生涯働くことも決して夢ではなくなっています。
建築に興味のある方は、建造物をつくる魅力ややりがいのある建築士という職業をぜひ目指してみてはいかがでしょうか。